
橋本 保氏(はしもと・たもつ)
昭和29年5月生まれ59歳。郡山市出身。郡山商業高校卒。1974年渡辺パイプ入社。97年日伸を設立し代表取締役就任。平成13年に有紀設立。
◆オートドア・ゼロ全国で施工実績60件/海外へ普及も、会津本社に上場目指す
安全性と電源レスを実現した自動ドアが注目を集めている。動力に人の体重を利用し、電気を全く使わず省エネを超えた夢の自動ドア「オートドア・ゼロ」。全国の自治体をはじめNEXCO中・西・東日本、餃子の全国チェーン店など平成20年10月の第1号納入から、これまで全国で60件を超える施工実績を上げている。東日本大震災から2年6カ月余が経ち、官民を挙げて「ふくしま再生」へ取り組みが進む。歴史と自然、モノづくりの伝統が息づく会津から全国へ「ふくしま発」の新技術を発信する㈱有紀の橋本保社長に話を聞いた。
(聞き手=朝倉久仁男会津支局長)
― まず、商品開発のきっかけからお願いします。
橋本社長 当社はもともと防火ドアの製造・販売会社です。平成20年に会津産の桐材を加工した不燃材が国土交通省の不燃材料に認定していただいたこともあり、地元材の燃えない木を使った木製防火ドアを営業の中心としていました。電気を必要としない開閉ドアは、中野泰雄氏(郡山市)が発明したものです。郡山市のビッグアイで開かれた新製品展示会で試作品を見て、これは必ず普及すると思い、当社の木製防火ドアに採用できないかと考え、試作品の改良やマーケットリサーチなどに協力し、現在の商品開発に至りました。
― 苦労した点はありませんか。
橋本社長 体重を利用してドアを開閉させる構造のため、ドアの前後部には駆動装置を設置します。起動させるための踏板が必要となりますが、当初開発された商品は、踏板の床高が10㌢は必要で、多くの方々から踏み込んだ感覚が「ジェットコースターに乗った感覚に似ている」と指摘されたことから、装置の改良を重ねて踏板部の高さを2㌢に抑えることに成功しました。段差を感じない、また車椅子利用者の方々にも負担をかけることのない床高を実現することができました。
― 次に商品の特徴などを教えてください。
橋本社長 安心、安全を最終目標に、近年の環境や高齢化への対応を商品開発のコンセプトとしました。先ほども話しましたが基本構造は、ドア前後の床下に埋め込んだ踏板を利用者が踏む、要するに体重をかけることで床下の機構部が作動し扉が開く仕組みとなっています。30㌔までの引き戸タイプなら荷重20㌔以上で開閉します。上部・下部のユニット構成で壁面や扉のデザインを選ばないので、意匠に合わせて自由に選択できるようにしました。
仕様は、片開きと両開きタイプがありますが、デザインも木製、鋼製、市販のアルミサッシや特注サッシも選べますし、地元材を使って地域性も演出できます。地元材の使用はその地域の林業活性化につながりますので大切なことです。上部、下部にはそれぞれ点検口を設置していますのでメンテナンス性にも優れていると考えています。
必要経費について当社試算では、一般的な電動自動ドアと比較して、電気代を含めると5年間で経費の合計を逆転します。10年後には約70万円ものコストダウンを実現する。また、電動ドアは1日に1000回作動するとして約0・1㌔㍗の電力を消費します。この場合のCO2の排出量は850㌘で、1年間では約30㌔㌘に達します、これを吸収するには、44本の植林が必要と言われていますが、電源レスのこの商品は電気代もCO2の発生量もゼロです。究極のエコ商品と考えます。
電気工事費やランニングコストも一切不要ですし電磁波も発生しません。手で触れる必要がなく衛生的なことから、ウイルスの感染防止にも有効とされ、最近完成した東京都渋谷区の大型百貨店では、デパ地下食品売り場の従業員専用トイレと社員用の授乳室にも採用していただきました。
― これまでの納入・施工実績について教えてください。
橋本社長 平成20年に地元三島町の町民センター風除室内入口に設置したのが第1号です。現在までにNEXCO中日本の浜名湖サービスエリアや同東日本の常磐自動車道ではいわき市の湯ノ岳サービスエリア上・下線トイレにも設置してあります。このほか阪神電鉄鳴尾駅のホーム待合室や餃子の全国チェーン店、東急渋谷ヒカリエなどに納入しました。県内では会津若松市立の中学校特別教室入口や福島市にある私立高校の多目的トイレ、老人保健施設や病院のエントランス、銀行応接室など県内外合わせてこれまでに全国で60カ所、80台ほど採用していただいています。
― メンテナンスやアフターサービスについては。
橋本社長 メンテナンスについては今年8月現在で、全国に122社ほどある登録施工店で対応しています。性能上の苦情もなく、アフターサービスも含めて施主様には好評をいただいていますが、さらなるバリアフリーや床面の仕上げ法について研究し、より安全に安心して使用していただけるよう研究開発を続けていきたいと考えています。
― 最後に福島復興に臨む地元企業としての抱負を。
橋本社長 先ほども申し上げましたが、お客様のためにも商品の性能向上と登録施工店の皆さんと協力してコストダウンも図りながら、全国、海外にも普及したい。将来的には会津を本社に株式上場を目指したいと考えています。
― 活躍を期待しています。ありがとうございました。