トップビルダーインタビュー

【プロフィール】
 石井一男氏(いしい・かずお)
昭和35年3月生まれ、郡山市出身51歳。日大東北高校卒。23歳で石井工務店入社。平成元年石井工務店代表取締役就任。
 ㈱石井工務店
 本社=郡山市田村町字三ノ丸33、創業昭和23年。資本金9491万円、社員数105人。県内に5支店・展示場、栃木県に3支店・4展示場を開設。今年早期に埼玉県内に支店開設を準備。

県内住宅市場は、大手ハウスメーカーがシェア争いを繰り広げ、本紙の集計でも戸建て住宅の4割が県外企業の受注となっている。そんな中、地場ビルダーとして2年半にわたり受注県内トップの座を守り、ふくしまの家づくりをけん引する石井工務店・石井一男社長に話しを聞いた。

基礎・構造、差別化徹底で、本物の家づくり

◆大学教授がアドバイス
― ここ数年、地場ビルダーとして県内トップの受注実績を誇っていますが、石井工務店さんの「家づくり」に対する姿勢がユーザーに浸透してきたのでは。
石井社長
 ありがとうございます。当社のキャッチフレーズである「冬暖かく 夏涼しい 温度差の無い家」こそ私たちは「本物の家」と考えています。しかし「高気密・高断熱」だけでは選んでもらえない。基礎や構造にしても本物を採用している。基礎については岩手県立大学の本間義規先生、構造についても工学院大学の宮澤健二名誉教授のアドバイスをいただき徹底した差別化を図っています。 基礎も普通の基礎と違います。通常、構造束は一般的な基礎として使われますが、私たちが造る家の基礎は「基礎一体型RC束」を採用しているため構造束は補助として使います。このほか床はマス組、壁は貫イゲタ、窓枠上部のマグサは120の角材を渡して高い強度を確保して、太陽熱を4割カットする遮熱透湿防水シートも採用して、他社との差別化を徹底させています。

◆口コミが最強の営業力
― 基礎が構造が・・・、と言われても理解するのは難しいと思いますが。工務店を選ぶポイントはそれだけではないと考えますが。 石井社長 「女性が考えた女性のための家」が当社の「売り」ですから、女性に嫌と言われないように、設計からマン・ツー・マンで女性スタッフが奥さんと打合せをする。奥さんの目線に立って納得していただく家を造ることがポイントです。住宅の性能は勿論ですが、キッチンや玄関ドア、内装材のフリーチョイスは金額を統一し、一切追加料金はいただきません。女性に安心していただくことが大切です。 建物の構造を知っていただくためにお客様の現場連れ出しも行っています。施工中の現場を見学し実際に建物内に入ると夏でも本当に涼しい。テレビやラジオ、新聞などの広告媒体はかなり使っていますが、お客様はコマーシャルの中身が本当かどうか確認するために来社するわけです。基本的に現場を見ていただくことで他社との違いを明確にします。モノ(住宅)を買っていただくために広告媒体だけに頼っていては数年で終わってしまいます。やはり、実際に自分の目で見て納得していただく本物の家をしっかり造っていくことが大切。お客様の9割が「冬暖かく夏涼しく温度差の無い家」を実感していると言っていただいている。本物の家を提供することで掴んだお客様の「口コミ」が当社の最強の営業力と考えています。
― 家づくりに必要なものはデザインや住まい方の提案のほか、本当のところはきめ細かなアフターケアがポイントと考えます。特に昨年の東日本大震災は、まさに地場ビルダーとしての力が試されたと考えます。震災発生時の対応は。
石井社長
 地震発生後、当日の午後5時までにすべての社員を招集し、対策本部を立ち上げました。電話でお客様の安否と被害状況を確認するための電話連絡班、連絡の取れないお客様を訪問する班、展示場を復旧させる班、施工中の現場対策と資材関係が不足することが予想されたため物流確保のための対策班の4班で対応に当たりました。その結果展示場は約2週間で復旧し、月内にはお客様を迎えることができました。
― 被害状況確認といっても大変な数でしょう。
石井社長 県内外合わせて5000件はありました。連絡が取れないお客様は訪問し、確認用紙を置き連絡をお願いしました。被災住宅の復旧では倒壊などの被害は無かったため、緊急復旧、早急復旧など4段階に分けて対応し、新築中の物件については理由を説明し工期延期をお願いしました。特に被害が多かった蓄熱式温水給湯器の復旧には全国手配し200台を抑えて復旧にまわしました。
― 震災対応は勿論ですが通常のアフターメンテナンスをお客様は評価していると聞いていますが。
石井社長 当社は基本的に現場監督がアフターメンテナンスも担当しています。例えば、「はい、現場が竣工しました。引き渡しました。後はメンテ担当の別の人間が来ます。何かあったらその人に」で、お客様はどう感じるでしょう。現場監督は施工中からずっとお客様と打ち合わせしながら家を造ってきた。顔も知っているし、手直しや追加など途中の問題なども全部知っているわけです。顔を知っているからお客様も言いたいことを「ズバッ」と言えることはお客様の癒しになる。嫌なことは勿論聞きたくありませんが、本物の家を一緒に造ってきた、構造材についてもハイブリッド材ですべて造っている。自信を持って家を造っていますから簡単なことです。

◆本年分400棟を受注
― 今年の営業目標など教えてください
石井社長 震災発生後の対応を評価いただいたこともあると思いますが、昨年暮れ時点で本年着工分として福島、栃木合わせて400棟を受注することができました。パンク状態のため昨年8月から施工協力店を募集しましたが大工さんや屋根屋さん、内装屋さんなど協力店を3割増やすことができました。 現在、県内5支店、栃木県4支店体制となっていますが、今年早々に栃木県足利、埼玉県春日部、北大宮の合わせて3支店を開設する予定です。埼玉県には消費税の増税時期前にさらに5支店開設して7支店体制で臨む考えです。

◆原発収束待って上場推進
― 株式上場については。
石井社長
 25年を目標にしていましたが、東日本大震災のため一時ストップしています。原発事故収束の見通しが明確になったら再度進めていく考えです。
― 原発事故による放射線の影響は。
石井社長
 足場は全部買い取ってほしいと言われました。県内から出る資材関係はすべてチェックしますので安心です。原発事故後に放射線問題は深刻になると考えておりましたので、事故後、すぐに埼玉県内にある2つの関連工場を抑えました。工場を拠点に埼玉、栃木、福島の3県それぞれの供給体制を確立させました。年間600棟体制を目標にあらかじめ供給体制を固めるための準備を進めていたので対応することができたと考えています。
― CSセミナーなど協力店に対しての活動も熱心ですね。
石井社長 会社の方針として、協力店には「自分の家」と思って造ってほしいと言っています。造る人間が自分の家と思ったら現場にゴミが落ちていたら嫌でしょ。自分の家と思ったら当然です。当たり前のことを当たり前にやってほしいとお願いしています。

◆本物の家で復興に協力
― 最後にふくしまの家づくりの牽引役としての決意を。

石井社長
 日本の人口は20年後には5000万人まで落ち込むと言われています。その中で生き残るにはお客様に必要とされる工務店として、お客様を主役にした本物の家を造っていくしかない。人生で3回建て替えが必要などと言われているが、それでもお客様がデザインや性能など値段が高くとも納得していただける家を造りたい。お客様のイメージを映像化し疑似体験できるような技術もほしいですね。 今回の地震による被災者への仮設住宅建築については要請もありましたが残念ながら協力することはできませんでした。しかし、早く自分たちの家で家族一緒に生活したいと考えている人たちも大勢います。お客様に喜んでいただける「本物の家を造る」という自分たちができる範囲で福島県の復旧復興に協力していきたいと考えています。
― ありがとうございました。