野菜類を露地でなく工場で生産する「植物工場」が県内でも現実味を帯びてきた。東日本大震災が誘発した津波による農地の塩害、原発事故による風評被害からの復興が引き金となった。
平成21年、農林水産省と経済産業省は農商工連携植物工場に関する報告書をまとめ、植物工場第3次ブームに火を付けた。安全な野菜を、年間を通して供給でき、しかも農地法の制約を受けず土地の高度利用が可能になる植物工場は、雇用創出面でも期待を担う。
東日本大震災以来、建設大手や設備工事会社を中心に植物工場の建設や運営に関心が高まり、現実に参入へ名乗りを上げる企業が相次いでいる。先月26日には川内村で「川内高原農産物栽培工場」の完成式典が行われ、連休明けを待ってリーフレタス、ハーブなどの本格栽培に入った。
同工場は、昭和電工の植物育成用LED素子および高速栽培技術を採用した完全密閉型の植物工場で、葉菜類を一日に最大8000株以上収穫できる。LED活用の完全人工光型としては世界最大級だ。村と東京都内の食品流通会社「まつの」が共同出資した第三セクター「KウMウDoRi」 が運営する。
同村は原発事故直後、警戒区域と緊急時避難準備区域に指定され、村民のほとんどが避難したが、昨年4月までに解除、コメの作付けも再開された。遠藤雄幸村長は「村の未来の農業の形」と説明した。現在6人のスタッフを将来25人程度まで拡大する方針だ。
一方、新地町では三機工業がいわき市のふくしま和郷園とタイアップしてエネルギー自立型植物工場の実現を目指し実証実験を進めている。同実験では、省エネ型イチゴ栽培技術であるクラウン加温技術と英国企業の持つ高性能太陽熱パネルによって温熱を供給するという。相馬市も農家からの共同出資による植物工場の構想を練る。
植物工場の計画は、食の安全や高品質の野菜を生産、供給するため全国的に広がりつつあり、建設産業界が技術面でのリーダーシップを執る。風評被害に頭を悩ます本県の農業生産者や農業団体は、新しい農業のあり方として真剣に、かつ積極的に研究する必要がある。県内の建設産業もあらゆるネットワークを駆使して、農業関係団体との連携を図り、本県農業の再生に尽力すべきだ。
TPPの交渉いかんでは日本の農業そのものが転機を迎えることになる。まだまだクリアしなければならない問題点も残る「植物工場」だが、農業県であり被災県でもある本県では避けて通れぬ課題である。公共事業の復活でトーンダウンした建設業の「新分野進出」だが、まさに新分野に位置付けられよう。(八島)
(平成25年5月10日号掲載)